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【PICK UP】 『東風吹かば…』飛梅伝説を追え!<京都市・福岡県太宰府市>その2

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※こちらの記事はwebサイト『花橘亭~なぎの旅行記~』内、「PICK UP」に掲載していたものです。(執筆時期:2004年)
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 『東風吹かば…』飛梅伝説を追え!

その1の続きです。


『東風吹かば…』が含まれる主な作品まとめ


  ―平安時代―


●寛弘2年~3年頃(1005~1006年頃)編纂
『拾遺和歌集』巻第十六 雑春

  流され侍りける時、家の梅の花を見侍て   贈太政大臣

 東風吹かばにほひをこせよ梅花 主なしとて春を忘るな


<なぎコメント>
「東風吹かば・・・」の初出です。
 勅撰和歌集である『拾遺和歌集』が編纂されたのは、道真が亡くなった延喜3年(903年)から約100年後のこと。
“贈太政大臣”とありますが、道真の死後、正暦4年(993年)に正一位太政大臣の官位が贈られました。



●平安時代後期成立
『大鏡』第二巻 左大臣時平

  かたがたにいとかなしく思し召して、御前の梅の花を御覧じて

 こち吹かばにほひおこせよ梅の花 あるじなしとて春をわするな


<なぎコメント>
『拾遺和歌集』・『大鏡』では、まだ道真の邸宅を“紅梅殿”と記していないもよう。



●治承4年(1180年)頃?成立
『宝物集』巻第二

   古郷の梅をよみ給ひける

 東風ふかばにほひをこせよ梅の花 あるじなしとて春なわすれそ


<なぎコメント>
『宝物集』でも道真の邸宅を“紅梅殿”と記されていません。
第五句“春なわすれそ”の初出作品のようです。



  ―鎌倉時代―

●承久元年(1219年)作成
『北野天神縁起絵巻(承久本)』巻3 (二十八紙の詞書)
        
 おさなき君達うちくして出給しにすみなれ給ける紅梅殿のなつかしさのあまりに心なき草木にもちきりをむすひ給ける
   
  こちふかはにおひおこせよむめのはな
  あるしなしてとてはるをわするな
   
  さくらはなぬしをわすれるものならは
  ふきこむかせにことつてはせよ

 さてこの御歌のゆへにつくしへこの梅はとひてまいりたりとて申侍るめる


<なぎコメント>
承久本『北野天神縁起絵巻』の絵には、邸内から紅梅を眺める道真の姿が描かれています。


『平安時代史事典』(角田文衞・監修/角川書店)の“紅梅殿”の項によりますと、弘安本『北野天神縁起』には

「承相の御家は五条坊門、西洞院。めでたき紅梅ありければ、後人、紅梅殿とぞ名付ける」

と記されているそうです。
邸に“紅梅”があったから“紅梅殿”という名前なのですね。
弘安本『北野天神縁起絵巻』は弘安元年(1278年)作成とみられています。



●宝治元年頃(1247年頃)?成立
『源平盛衰記』巻第三十二
 
 住みなれし故郷の恋しさに、常は都の空をぞ御覧じける。頃は二月の事なるに、日影長閑に照らしつつ、東風の吹きけるに思し召し出づる御事多かりける中に、
   
  こち吹かばにほひおこせよ梅の花 あるじなしとて春を忘るな

と詠じければ、天神の御所高辻東洞院紅梅殿の梅の枝割け折れて、雲井遥かに飛び行きて、安楽寺へぞ参りける。


<なぎコメント>
他の作品では、京の邸宅(紅梅殿)で詠まれたとされていますが、『源平盛衰記』では太宰府の安楽寺で詠まれたことになっています。安楽寺は道真の死後、道真の墓所の上に建立されたお寺ですので、それはありえませんよね。(安楽寺は現在の太宰府天満宮です。)また、本文に東洞院とありますが西洞院が正しいと思われます。
『源平盛衰記』では物語だけに、ドラマチックに描かれています♪



●建長4年(1252年)成立
『十訓抄』第六 忠直を存ずべき事
            
   菅家、大宰府におぼしめしたちけるころ、   

  東風吹かばにほひおこせよ梅の花 主なしとて春な忘れそ

とよみおきて、都を出でて、筑紫に移り給ひてのち、かの紅梅殿、梅の片枝、飛び参りて、生ひ付きにけり。


<なぎコメント>
年少者向けの説話集です。
第五句が“春なわすれそ”となっています。
梅の貞節を説いた文です。



●建長6年(1254年)成立
『古今著聞集』
 671 松樹を貞木と稱する事并びに菅原道眞太宰府にして我が宿の梅を詠む事


  菅家太宰府におぼしめしたちける此、

 こちふかばにほひをこせよ梅花 あるじなしとて春なわすれそ

とよみをき給て、みやこをいでゝ、つくしにうつり給てのち、かの紅梅殿の梅の片枝とびまいりて、をひつきにけり。


<なぎコメント>
同じく説話集。
飛梅のエピソードが『十訓抄』とほぼ同じです。



  ―南北朝時代―

●応安4年頃(1371年頃)成立
『太平記』巻第十二 大内裏造営事付聖廟御事

年久ク住馴給シ、紅梅殿ヲ立出サセ玉ヘバ、明方ノ月幽ナルニ、ヲリ忘タル梅ガ香ノ御袖ニ餘リタルモ、今ハ是ヤ古郷ノ春ノ形見ト思食ニ、御涙サヘ留ラネバ、

 東風吹バ匂ヲコセヨ梅ノ花 主ナシトテ春ナ忘レソ

ト打チ詠給テ、( ~略~ )。心ナキ草木マデモ馴シ別ヲ悲ケルニヤ、東風吹風ノ便ヲ得テ、此梅飛去テ配所ノ庭ニゾ生タリケル。サレバ夢ノ告有テ、折人ツラシト惜マレシ、宰府の飛梅是也。


<なぎコメント>
配所=大宰府で道真が過ごした“府の南館”。現在の太宰府市にある榎社の地。
宰府=大宰府のこと。




このように比較するとおもしろいですね。


【本文引用】
拾遺和歌集:新日本古典文学大系7/岩波書店/小町谷照彦 校注
大鏡 :日本古典文学全集20/小学館/橘健二 校注
宝物集:『宝物集・閑居友・比良山古人霊託』新日本古典文学大系40/岩波書店/小泉弘・山田昭全・ 小島孝之・木下資一 校中
北野天神縁起:日本絵巻大成21/中央公論社/小松茂美 編
源平盛衰記:『新定 源平盛衰記』第四巻/新人物従来社/水原一 考定
十訓抄:新編日本古典文学全集51/小学館/浅見和彦 校注・訳
古今著聞集:日本古典文学大系84/岩波書店/永積安明・島田勇雄 校注
太平記:『太平記一』/日本古典文学大系34/岩波書店/後藤丹治・釜田喜三郎 校注

(注)引用させていただくにあたって、一部、旧字を新字に変更した部分があります。

なぎ のコメント はあくまでも私の印象です。
詳細を知りたいと思われる方は
それぞれの作品をご覧の上、ご確認下さいませ。




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